計算力学技術者(熱流体)2級試験  受験方法から難易度、試験範囲など

皆さん、こんにちは

メーカーでCAEの業務に従事している私ですが、この度、2021年度の計算力学技術者の2級熱流体に合格したので、試験の概要や勉強方法などを備忘録がてらまとめていこうと思います。

 

 

 

計算力学技術者とは?

計算力学技術者認定試験は、日本機械学会が運営する資格試験です。

ざっくり言ってしまうと、「CAEソフトウェアを使うのはいいけど、ブラックボックスで使うのは良くない」ので、ちゃんと中身を理解しましょうね。という試験です。

そのため、計算力学で必要な数学から、各分野(固体力学、熱流体、振動)の基礎知識、実際に解析を行っていく過程での工程や考え方などを一通り学ぶことができます。

 

試験の種類(熱流体以外も)

ブラックボックスになるのは良くない」というのは理解できますが、CAEの分野は非常に範囲が広く、そして深いです…

ということで、計算力学技術者検定では、試験の分野とランクが分かれていますので紹介しておきます。

試験の分野は、固体力学熱流体振動の3つで、ランクは、初級2級1級上級アナリストの5段階です。

私は新卒1年目に熱流体の2級を受験しましたが、ご自身の業務経験や知識を踏まえて受験項目を選んでみてください。

 

2級はどちらかというと入門よりの試験です、最近CAEを触り始めた人や、これからCAEの勉強を本格的にやりたい!という方は、2級からがおすすめです。(1級は実務経験も必要)

 

対象者

ここからは、熱流体2級試験に絞って書いていきます。

資格の対象者は、上述の通りCAE解析を業務(あるいは研究)で行っている方です。

基本的には大学卒以上、むしろ社会人が受験の対象になる試験です。

2級の目指す姿は次の通り。

 

熱流体2級

基本的な流体力学、熱力学(伝熱学を含む)の問題に対して、単相の非圧縮性流/圧縮性流/層流/乱流の範囲において正しく解析問題を設定することができ、解析方法の内容を理解しており、さらに解析結果の信頼性を自分自身で検証することができる。

よって、いずれかの信頼のおける CAE ソフトウエアを用いて適切な解析機能を選択しながら、基本的な熱流体問題を大きく誤ることなく解けるものと期待できる。

 

計算力学技術者資格認定事業員会より引用

 

上記の通り、試験で扱うのは、

  • 流体力学
  • 熱力学
  • 単層流(圧縮性の有無、層流・乱流)
  • +α

であり、流体解析の中では基本的な分野が対象となっています。

まずはCAE解析で注意すべき点や、何ができて何ができないのかを判断できる人材になることを目指します。

発展的な分野を勉強していくためのステップ的な立ち位置と思えばOKです。

 

合格率など難易度

熱流体分野2級の合格率をまとめました。

2005年から試験が開始されていますが、最近の合格率に着目するのが良いと思います。

資格試験としてのマーケットは決して大きくないですが、受験人数は2019年が286人と過去最多で、合格率は62%ほどでした。

2017年から以降は65%前後で推移しており、一般的な資格試験と同程度ですが、母集団が非常に限定されているのに注意が必要です。

そもそも受けようとする人は、大学(あるいは大学院)卒で、社会人の受験者が多くなっています。

そういった人々が試験を受けても、”それなりに勉強しないと落ちる”レベルの難易度が2級試験です。

 

資格取得のメリット

この資格を取るメリットはなんでしょうか。

月並みですが、私なりに考えてみましたので参考にしてください。

CAE解析をするうえで(最低限)必要な知識を学べる

1つ目は、CAE解析をするうえで、(最低限)必要な知識を学べることです。

あくまで、”最低限”なのがポイントで、この資格を取った=CAE解析が出来る!状態にはもちろんなりません。

とはいえ、試験範囲に含まれる内容は、CAE解析をするうえで必ず必要となる知識です。

CAE解析では、コンピュータの知識や数学、物理学、業界のドメイン知識なども必要で、それらの分野が急速に発展している中、新たに新人としてCAE解析を行っていくのは非常に大変なことです。

 

この計算力学技術者検定では、上記の知識のうち最もベースとなる内容を抜粋して試験化しているので、どういう知識が必要になるかを把握する手助けになります。

各分野の最もベーシックな部分を資格試験で抑えておいて、自分たちでレベルアップしていくための足掛かりとして使うのが、最も有益な使い方だと思います。

 

技術力の証明になる

1つ目の理由と被る部分もありますが、自分の技術力を証明することができます。

あくまで2級ですので、技術力が高い!とはなりませんが、CAE解析で最低限必要となる知識を持っているエンジニアであることはゆるぎない事実です。

社内でエンジニアとしてレベルアップしていく場合や、社外の人との議論、転職など、様々な場面で自分の発言を補強してくれる存在になってくれると思います。

 

受験方法

次は受験方法です。

受験に必要な要件などは、機械学会のHPを見ることになると思うので、この記事では、ざっくりとしたタイムスケジュールを書いていきます。

いつ何をすればいいか、ざっくりと把握してもらえれば良いです。

 

受験資格

2021年時点での受験資格は以下の4つのいずれかを満たしている必要があります。

  • 公認 CAE 技能講習会(熱流体力学分野)の受講による認定

  • 実務経験による認定
  • 学位による認定
  • ソフトウエア使用経験認定証明書による認定

このうち、私は、公認 CAE 技能講習会(熱流体力学分野)の受講による認定を使って受験しました。

学位による認定もいけそうではあったのですが、ちょうど受講機会に恵まれたのでそちらを使いました。

講習会は例えば以下のようなCAEベンダー(開発元やその代理店)が開催するセミナーです。

 

https://www.idaj.co.jp/academy/seminar/training_detail.html?courseid=183

 

https://www.cybernet.co.jp/ansys/seminar_event/technical/fluent.html

 

https://www.sbd.jp/training/flow_beginning_training.html

 

認定講習会の一覧は、機械学会の下記ページにまとまっています。

皆さんの身近でそういったセミナーが開催されている方は、参加を検討してみてください。(できれば会社のお金で受けたいところですが…)

公認CAE技能講習会

申し込み

申し込みは例年お盆前に始まります。

試験日

試験は2019年度から、CBT方式で、いわゆる全国にあるテストセンターみたいな会場に行って試験を受けます。

 

2021年度の試験日は12月9日でした。

大体1か月ほど前から、試験会場を決めるための案内メールが届き、試験会場を決めることになります。

受験費用の支払いはこのタイミングです。

私はいつお金払うんだ…?と不安になっていたので、試験会場を決めて受験が確定してから支払うんだ。と思っていてください。

合格発表日

2021年の合格発表は2022年の3月上旬でした。

3月8日に結果通知が発送され、届き次第結果を知るという感じです。

 

あとは、3月8日以降、個人ページに、認定に関する書類のアップロード画面が登場します。

こちらは合格者にしか表示されないものなので、3月以降定期的にログインして、その画面が出ていれば合格と判断することもできます。

 

合格後

合格後は、資格を登録するか、申請するフェーズにはいります。

書類を個人ページからダウンロードし、「認定申請書」「誓約書」に必要事項を記入しPDF化したものを送信して認定完了です。

無事認定されると、認定者一覧に本名が掲載されます。

 

試験内容と勉強方法について

試験範囲 2級熱流体

全体の所感

試験は全て4択問題となっています。

11単元に分かれており、問題は70問、70%以上の正解で合格とな

 

※また、11単元のうち、全問不正解の単元が2つ以下である必要がありますので、注意が必要です。

 

以下では、試験範囲について個人的な感想を書いていきますが、勉強のベースは必ず標準問題集にしましょう。

類似問題もかなり出題されますので、問題形式に慣れつつ、問題で問われたキーワードを各種教科書で追っていくのが最短ルートな気がしています。

 

公式問題集に記載されているキーワードは以下の通りです。

計算力学のための数学の基礎

CAEと言えば、近似計算ということで、近似する土台となる、偏微分方程式

偏微分方程式の離散化法であるテイラー展開などが出題されます。

 

偏微分方程式、初期値問題、境界値問題、テイラー展開、ベクトル・テンソル解析、座標変換、ガウスの定理

流体力学の基礎

いわゆる、教科書的な流体力学を扱う単元です。

レイノルズ数や、Navier-Stokes方程式など、流体力学の教科書で勉強可能です。

 

次元解析、無次元数(レイノルズ数、マッハ数など)、渦、ベルヌーイの定理、運動量・エネルギー、Navier-Stokes方程式、連続の式、抵抗係数、揚力係数、乱流、二次流れ、超音速流、亜音速流、境界層、壁法則、流線・流脈線、希薄気体

熱力学・伝熱学の基礎

こちらは、教科書的な熱力学です。

流体との関連で言うと、自然対流の取り扱いや、密度変化を温度差で近似するブシネ近似も必須の項目です。

 

熱量・仕事、理想気体状態方程式、熱力学第1法則、熱力学第2法則、内部エネルギー、エントロピー、熱機関、熱効率、断熱変化、比熱比、音速、等温変化、サイクル、p-V線図、熱伝導、フーリエの法則、熱伝導率、無次元数(プラントル数、グラスホフ数など)、温度境界層、ヌッセルト数、強制対流、自然対流、ブシネ近似

数値計算

この単元では、次の時刻の物理量をどのように予想するかを扱います。

有限体積法と有限要素法の違いや、陽解法と陰解法の違いなど、CAE解析で絶望しがちな部分ですが、正直ここが一番難しいと思います。

 

誤差、精度次数、有限差分法、有限体積法、有限要素法、スペクトル数、渦法、粒子法、風上差分法、QUICKスキーム、時間積分法(陽解法、陰解法)、SIMPLE系解法、MAC系解法、補間、行列解法、クーラン数

格子生成法

この単元では、解析空間の離散化の方法を扱います。

最近は、テキトーな設定でイイ感じにメッシュを切ってくれる製品が増えていますが、その土台となる理論が出題されます。

 

構造格子、非構造格子、格子生成法、解適合格子、重合格子、写像、格子配置と解の精度

乱流モデル

この単元では、流体解析特有の、”乱流”の取り扱い方法を学びます。

流体解析では、流れを解いている様に見えて、実際はかなりザックリ(平均化)した計算を行っているのですが、そのザックリ方法がザックリ出題されます。

 

渦粘性、レイノルズ応力、DNS、LES、RANS、k-εモデル、応力モデル、渦粘性係数、乱流プラントル数、等方性、モデル定数、解析対象と乱流モデル、SGS応力モデル

 

境界条件

この単元では、境界条件について学びます。

ノイマン条件やディリクレ条件など、なかなか聞く機会のない単語が出てきますが、意外と勉強しにくい単元の1つです。

これまでの単元では、各分野の教科書がありましたが、以下の単元は少し実務よりとなってきます。

 

流入条件、流出条件、壁面境界条件、圧力境界条件、熱的境界条件、壁関数、乱流モデル、no slipとfree slip、境界層外縁、対象境界条件、超音速流・亜音速流の境界条件

ポスト処理の基礎

この単元では、ポスト処理(結果)について学びます。

こちらも勉強しにくい単元ですが、CAEソフトを使ったことがある(あるいは使える環境がある)人であれば難易度は低いです。

 

速度ベクトル表示、流体力の算出、エネルギー損失、質量流量、流線、コンター図、等値面図

結果の検証方法の基礎

この単元では、得られた結果が正しいのか、評価に値するのか検証するための知識を学びます。

「学びます」と言いますが、結局はケースバイケースで、どれだけ経験を積んだエンジニアでも頭を悩ませるところです。

 

理論との整合性、質量流量の保存、実験結果等との比較、格子点配置と計算精度、非物理的解の発見、近似精度、解の収束性、物理的洞察と計算結果の整合性

コンピュータの基礎

この単元では、コンピュータの基礎と題して、並列計算やプログラミング、ライセンスなど様々な内容を学びます。

この単元は出題数と比べて、範囲が以上に広く、試験に受かるだけであれば、標準問題集に絞って勉強した方が早いです。

コンピュータの知識はシミュレーションに不可欠ですが、ちゃんと勉強したいのであれば、基本情報技術者試験などを受ける方が良いと思います。

 

計算速度、CAEプロセス、ファイル転送、プログラミング言語

計算力学技術者倫理

ここは常識問題です。

標準問題集を3周くらいすれば、十分だと思います。

 

著作権守秘義務、ミスなどの発見時の対応

 

CAEエンジニアの登竜門

以上、計算力学技術者(熱流体)2級試験の概要について説明してきました。

マイナーな資格なので、なかなか受験への敷居が高いですが、どのサイトよりも詳しくまとめたつもりです。

私の場合は1年目で合格することが出来ましたが、学生時代にCAEを使っていたことや、何より入社後の業務で得た知識が大きいかなと思います。