こんにちは
今回は、「PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の謎」を読んだので紹介していきます。
Contents
本書の概要
本書では、大ヒット作品を連発したPIXARの聡明期からディズニーに買収されるまでをCFOであるローレンス・レビーの視点から語られています。

作者情報
作者であるローレンス・レビーはロンドン生まれ、インディアナ大学卒、ハーバード・ロースクール修了のエリート弁護士でした。ハーバード・ロースクールは、洋ドラマSUITS、主人公マイクの事務所がハーバードからしか採らないことでも有名です。
長らくシリコンバレーの弁護士をしており、1994年にスティーブ・ジョブズ自身から声をかけられ、PIXARの最高財務責任者(CFO)兼社長室メンバーに就任。
のちにPIXARの取締役にもなった、まさにPIXAR成功の立役者です。
作品の背景
本書は、PIXARが「トイ・ストーリー」の制作に乗り出したところから、ディズニーに買収されるまで、10年ほどの物語です。
これまで、PIXARに関する本は数多くありますが、多くは技術的な面であったり組織作りに関するものです。
本書は、これまであまり語られていなかった、経営の中枢にスポットライトが当たっており、PIXARが大好きな人から、ジョブズに興味のある人、ビジネスに興味のある人にとっても楽しめる内容となっています。
また、完成までにぶつかった多くの課題や、なぜ「おもちゃ」が題材となっているのかなど作品に関わる部分についても多くの記述があり、新しい発見が数多くありました。
PIXAR激動の歴史
私のような世代にとってPIXARはモンスターズインクやトイ・ストーリーなどに代表されるような世界的なアニメーション企業というイメージしかありません。
しかし、レビーが就任した当時のPIXARは、工業団地の低層ビルを本拠地とする従業人150人ほどの小さなベンチャー企業でした。
しかも、ジョブズから運転資金を毎月受け取る日々で、お世辞にも経営が成功しているとは言えません。
アニメーションソフトや、その技術コンサルティングには確かな実力がありましたが、どれも市場が狭く利益も少ない、このまま継続しても成長は見込めそうにない状況でした。
そんな中、初の長編映画である「トイ・ストーリー」の作成が行われており、レビーには、経営の立て直しと、シリコンバレーの誰も夢見る株式公開を命じられます。
周知の通り、トイ・ストーリーは全世界で大ヒットしたわけですが、公開までのヒヤヒヤと、公開後の達成感、その後の株式公開と完全にレビーの主観で話が進んでいきます。
ジョブズ、ディズニーとの関係
オーナーであり嫌われ者のジョブズ
私自身が、ジョブズに詳しくないため初知りだったのですが、PIXARはジョブズの会社でした。
それも、アップルを追い出されたあと、別の会社も失敗し、「ジョブズは終わった」と言われていた時期のことです。
ジョブズとしては、PIXARの失敗は許されず、どうしてもPIXARの株式を公開しなければならないという状況です。
しかし、ジョブズはPIXAR社内の運営にはほとんど関わっていません。
重要な経営に関する決定や、社外でのやりとりでは重要な役割を果たしていますが、社内からの評判はすこぶる悪く、レビーに対しても「スティーブを近づけるな」というコメントもあったほどです。
最終的には、ジョブズも含めPIXARが完成するのですが、それに至るまでの経緯なども楽しむことが出来ます。
敵であり味方であるディズニーとの攻防
現在は、「ディズニー・PIXAR」のように、PIXARも1つのブランドとして完全に定着しています。
しかし、処女作の「トイ・ストーリー」の時は、ポスターや広告、グッズなどにPIXARの文字はほとんどありませんでした。
ポスターの隅っこに小さく書かれているだけで、PIXARが作っている事実は、会社の家族くらいしか知り得ない状況でした。
更に、ディズニーとはアニメーション映画を3作品提供する契約となっていました。ちなみに当時のアニメーション映画は3年から4年かかると言われており、実質ディズニーと10年間の契約に縛られていました。
更に、ディズニーだけでなく、ハリウッド全体のようですが、PIXARのような無名の企業が契約を結ぼうと思うと、興行収入の内訳は映画の配給会社が9割、制作会社が1割という形になるそうです。
ここまでを見ると完全に敵のディズニーですが、実際はPIXARが映画を完成させるか不透明な中、宣伝を行い、制作に関する補助もかなりあったようです。
トイ・ストーリーの公開後には、この関係がまた変化していくわけですが、どの展開でもさすがアニメーション界の雄といったところで器の大きさを感じます。
PIXARは何故凄かったか
本書を読んだ上で、私が思うPIXARが成功できた理由について考えてみます。
この答えは「理想と現実のバランス」だと思います。
PIXARが、世界で唯一の技術を持っていることは誰の目にも明らかでした。コンピュータ上で、モノの色、光、影を描写し、肌のしわまでも違和感なく再現することは、当時では画期的なことでした。
ただ、それだけでは通用しないのがビジネスの世界です。
その技術でどのような変化があるのか、私たちの生活がどう彩られるのかが必要です。
その点でジョブズのメッセージ性やシリコンバレーでの影響力は絶大でした。
本書では、「コンピュータグラフィックスで世界を変える」というメッセージが状況を動かした場面が数多くあります。
ただ、そのメッセージだけでは投資してもらえることはありません。
アニメーション業界のリスクや、それを低減させる施策を実行したレビーの存在も非常に大きく、うまく理想と現実のバランスを取っていたと思います。
私たちが普段生活する中でも、理想と現実のギャップに押しつぶされそうな場面が数多くあります。
そういった時に、理想から離れていることだけに着目するのはナンセンスで、理想と現実の間のどこかで「妥協」をしなければなりません。それは自分たちが今どこに居るのか、それは以前から前進した結果なのか、後退した結果なのか把握して判断できるようになりたいものです。
まとめ
本書について簡単にまとめてみました。
私は、そこまで映画を見るタイプではなく、PIXARについても有名な会社だよね程度の認識しかありませんでした。
本書を読み、PIXARの凄さを知ったと同時に、トイ・ストーリーなど作品についてもいくつか見てみたくなりました。
ぜひ、みなさんも本書を手に取ってPIXARの魔法を体感してみてください。