皆さん、こんにちは!
今回は、中公新書より、「アジア経済とは何か」を読んだので書評を書いていきます。
「経済」は大学の専攻や働く職種が業界を問わず、必要とされる知識です。
Contents
本書の概要
アジアで変化しつつあるビジネスの実態を日本を中心に解説されています。
本書でいうアジアとは、主に「東アジアと東南アジア」(中国とASEAN)です。
インドや中東、オーストラリアなども厳密にはアジア太平洋地域になりますが、本書では東アジアと東南アジアに絞っています。
地域を絞り込むことによって、戦後アジアの中で日本のポジションがどのように変化してきたのかをより見やすくなっています。
前半は、日本を中心にアジア経済を振り返ります。
そして、本書の終盤にはアジアが世界の中心になっていくために必要なヒントがちりばめられており、ビジネスマン必読の内容となっています。

作者情報
著者の後藤健太氏の経歴について簡単にまとめます。
学歴
- 1993年 慶応義塾大学商学部卒業
- 1998年 ハーバード大学 公共政策大学院修士課程修了、公共政策修士
- 2005年 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科修了、京都大学博士
職歴
- 1993年 伊藤忠商事株式会社
- 1998年 国連開発計画(UNDP)
- 2005年 国際労働機関(ILO)
- 2008年 関西大学経済学部 准教授
- 2014年 関西大学経済学部 教授
- 2016年 一般社団法人アジア太平洋研究所主席研究員を兼任
戦後アジアの形成と日本(共著、2014年、中公公論新社)
現代アジア経済論(共編著、2018年、有斐閣)
アジア経済に関する研究をされている方です。
本書でもアジア経済を多方面から解説されています。
アジア経済を考える
20世紀後半のアジア経済の発展は、日本が主導しました。
これは「東アジアの奇跡」と呼ばれ、東アジアの多くの国が日本に習る政策を実行し、アジア経済は大きくなってきました。
しかし当時のアジア各国は植民地下にあり、独立するのが精一杯。
独立しても、内政不安や植民地時代のビジネス構造からの脱却など多くの課題がありました。
そんなアジアがどのように発展し、1つになってきたのか振り返ります。
経済力・文化の多様性
現在でも、シンガポールや日本、韓国など先進国レベルの地域から、中国、インドネシア、タイといった中進国、そこから更に経済レベルの下がるミャンマーやバングラデシュなど様々な国があることがわかります。
アジアは文化も多様です。
比較のため、ASEANに所属する国の宗教をまとめます。
タイ・ミャンマー:仏教
シンガポール:仏教、イスラム、キリスト
インドネシア:イスラム教
フィリピン:キリスト教
このようにアジアは、経済的にも文化的にも非常にバラエティに富んでいます。
実はこれはEUと大きな違いです。
EUは、キリスト教の国々で構成されています。
トルコが以前からEU加盟を打診しているのですが、拒否され続けています。
その原因の1つとして宗教があるとされており、経済的に1つになるためには宗教というのが文化の違いとして大きなネックとして認識されています。
そんな違いを越えて1つになろうとするASEANを含むアジア地域は非常に多様性に富んでいます。
アジアはここまで大きくなった
アジアはここ数十年間、経済的に他の地域より大きく成長してきました。
世界銀行によると、東アジア太平洋地域の1人当たりGDPは、1990年からの約30年の間に、ラテンアメリカを抜き、中東/北アフリカに迫る勢いです。
30年前は、現在の6分の1程度のGDPしかなかったことを考えると、毎年6%の経済成長を実現しています。
自動車をメインに見ると、アジア経済の急成長が見て取れます。
2017年の世界の自動車販売総数は9680万台でした。
そのうち約40%の3868万台が、アジアの主要6カ国、北米3カ国では2123万台、欧州18カ国で1716万台販売されました。

2000年の世界の総販売台数は5756万台だったので、約1.7倍にまで拡大したことになります。
他の産業においてもアジア経済は世界経済を牽引しました。
アジア内での日本の昔と今
第二次世界大戦後のアジアは日本が支えてきたと言っても過言ではありません。
後に「東アジアの奇跡」と呼ばれた日本の高度経済成長は、間違いなくアジア経済を牽引しました。
一方で現在は失われた20年が30年になりつつあり、過去の栄光となってしまいました。
本書では、アジア内での日本の歴史について振り返っています。
戦後~高度経済成長
戦後間もない日本は、極度の物資・資源不足による生産停滞とインフレに悩まされていました。
これを解決するために講じられたのが、アメリカのドッジ・ラインという諸政策です。
財政の均衡化:支出を削減し、借金返済
インフレのコントロール:単一為替レートの設定(1ドル360円)
補助金の削減と廃止:企業の競争力確保
これらを行い、マクロ経済が安定化した日本は50年代以降、高度経済成長に入っていきます。
高度経済成長期の日本と東南アジア諸国との関係は、雁行形態論(がんこうけいたいろん)で説明されます。
赤松(1935)によって提唱された、途上国の経済成長を説明するモデル。
以下は、本書をより作成した、20世紀東アジアにおける発展例。
雁行モデルには、必要条件がある
- 雁陣でのあらゆる構成国の輸出には十分な市場が存在すること
- 後発国は絶えず先進国から資本と技術の支持を得られること
- 構成国の発展速度は相対的に均衡であること
東アジアでは、アメリカという巨大市場を受け皿に発展した日本を筆頭に連鎖的に経済成長が行われたと言われています。

プラザ合意~グローバルバリューチェーンの中核へ
1985年はプラザ合意が発表された年で、日本経済の大きな転換点にあたります。
プラザ合意
1985年9月22日
G5の蔵相・中央銀行総裁会議によって発表された、為替レート安定化に関する合意の通称。
中略
自由貿易を守るため、協調的なドル安路線を図ることで合意した。
とりわけ、アメリカの対日貿易赤字が顕著だったため、実質的に円高ドル安に誘導する内容だった。
プラザ合意により円高となり、輸出産業は大きな打撃を受けました。
その結果、日本企業は国内では内需を中心に、国外は現地に工場や法人を設立するFDIを積極的に行う方針へと変化していきます。
FDIは海外直接投資のことです。
海外で経営参加や技術提携を目的におこなう投資のことで、現地法人の設立、外国法人への資本参加などが含まれます。
投資先の国で、雇用の創出、技術移転などが期待出来るため、途上国や中進国などでは積極的に受け入れが行われています。
例:日本のメーカーがアメリカに工場を建てる(貿易摩擦の解消)
東南アジアに法人を経て、企画立案製造全てを現地で行う(雇用創出)
鉱山の採掘権を購入し、採掘を行う(自国へのエネルギー供給)
アジアの世紀にするために
最後に、アジアがこれからも成長し、21世紀をアジアの世紀にするためい必要なことをまとめます。
中所得国の罠を回避せよ
21世紀のアジアが克服するべき課題として、「中所得国の罠」があります。
途上国が「中所得国」まで成長できても、その後「高所得国」入りがなかなか果たせない状況を指す。
繊維や組み立てなど、低付加価値の産業から、精密機械など高付加価値産業に移行することができない例がアジア各国で散見されている。
中所得国の罠は主にASEANの国々が直面している問題です。
克服するためには、国内や近隣国の市場を使って高度化する方法が有効とされています。
産業の高度化には、企画やマーケティングといった知識集約的な業務が必要となります。
このような高度な業務を行う場合、いきなり不確実性の高い海外市場で行うのはリスクが高いため、市場について情報が入りやすい国内で産業を育てていく方が良いとされています。
日本のアパレル産業も、賃金の上昇により競争力を失った後、高度経済成長中だった国内市場向けに展開することで高度化を実現しました。
格差の是正とフォーマル経済への移行
アジア地域の国に出向くと、路上に屋台や売店、靴磨きといった様々なサービスが展開されている風景を見ると思います。
これらは一般的に「インフォーマル経済」と呼ばれており、社会保障の対象となっていない場合や、税制から外れた非公式なサービスのことを指します。
ただ、このインフォーマル経済でサービスや生み出される財は合法であることに注意が必要です。
実は世界で働いている人の6割以上が、インフォーマル経済の中で働いています。
インフォーマル経済の中にいるひとと、フォーマル経済にいる人を比較すると、当然収入が変わってきます。
その結果、社会が発展していくと格差が広がり、成長が阻害されるような政策が牽かれやすくなると言われています。
まとめ
以上、簡単にですが書評を書いていきました。
アジア経済は、これからの世界が成長していく上で欠かせません。
一方で、経済的にも社会的にも不完全な部分が多く本書で紹介されている課題の解決が不可欠であることも確かです。
日本がこれからもアジアに選ばれるためにも、私たちがアジアの現状を理解することが重要です。