皆さん、こんにちは!
今回は、2020年1月28日に宝島社から出版された「5Gの衝撃」を読んだので内容を概説していきます。
Contents
本書の概要
2020年の春から日本でも導入が始まる5Gですが、いまだにその全容を解説した本が少なく、
「早い?」
「ストリーミングゲームが来る?」
といったアバウトな印象しかない人も多いのではないでしょうか。
本書では、そんな漠然なイメージの5Gの全容を解説しています。
特に、誰が5Gを活用するのか?
その中で得をするのは誰か?
といったビジネスの視点で解説されているのが、本書の大きな特徴だと思います。

作者情報
作者である小林雅一氏について簡単にまとめます。
- 東京大学理学部物理学科卒
- 東京大学大学院理学系研究科修了
- 東芝、日系BP、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などを歴任
- 現KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授
- AIの衝撃・人工知能は人類の敵か(講談社現代新書)
- ゲノム革命がはじまる DNA全解析とクリスパーの衝撃(集英社新書)
- クラウドからAIへ(朝日新書)
など多数
著者の小林雅一氏は、ITやバイオなどの先端技術の動向調査に従事されています。
そして、執筆活動にも力を入れており大衆向けに最新技術を解説しており、なかなか独特なキャリアを形成されているように思います。
執筆歴も多数あり、実績も豊富なため、信頼できる著者であると言えます。
5Gの定義
本書の内容に入る前に、5Gの定義を解説しておきます。
国際標準化団体ITU-Rでは、「3GPP」という標準化プロジェクトに基づき、5Gが満たすべき最低条件を公開しています。
本書で紹介されている主な要件を以下に示します。
データの伝送速度
データ転送速度は、bbs(bit per second)で表されます。
5Gでは、下り20Gbps、上りが10Gbpsとなっており、4Gと比較すると約10~20倍の速度と言われています。
遅延時間
遅延時間はユーザーがデータの伝送などのリクエストを出してから、返答が返ってくるまでの時間を指します。
5Gに求められている遅延時間は1ミリ秒で、4Gの10分の1です。
ここでの遅延時間は、電波による無線通信区間における遅延時間です。
実際のモバイル通信では、光ファイバーなどによる遅延も発生するため、体感の遅延時間は長くなると言われています
同時接続数
同時接続数では、通信ネットワークに同時接続できる端末の数で、1平方キロメートル当たりの台数で表されます。
現在は、スタジアムなど多数の人が同じエリアにいると回線が混雑するなどの経験があるかと思います。
5Gでは同時接続数はなんと100万台で、4Gの100~500倍です。
これらはあくまで目標値であり、実用化された場合には、ここで示した数字を下回るとも言われています。
実際、5Gが実装されたアメリカの一部地域では、いずれも目標値を下回る数値が計測されたようです。
5Gで得をするのは誰か?
本書では、5Gにおける主なプレイヤーが誰なのか詳しく解説されています。
国内キャリアは、ドコモ、KDDIが優勢?
5Gサービスを開始するためには、総務省から、周波数の割り当てをもらわなければなりません。
この記事では、5Gビジネスの中核となると言われている、ミッドバンド帯(3.7GHz帯と4.5GHz帯)を見ていきます。
周波数の割り当てをもらうと、いわゆるMNO(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)の3代キャリアのように独自で回線を持てるようになります。
3代キャリアに加えて、楽天モバイルが新規参入を表明しているので、5G回線は、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天の4社で分け合うことになります。

この図を見てわかるように、4社が均等に回線を使えるわけではなく、ドコモとKDDIが2つずつ割り当てを受けていることになります。
この割り当ては、各社の5Gサービス計画を審査した上で決定されているようで、全国展開率や、MVNOに回線を多く解放しているなどが要件となっているようです。
将来的に、基地局が増えればキャリアごとの差はなくなると言われていますが、MVNOへの回線開放を考えると、ドコモとKDDIが優勢のまま進んでいくのではないでしょうか。
中国VSアメリカ
5Gはデジタル経済の屋台骨になる。そして、デジタル経済はますます世界経済の屋台骨になる。
ブルッキングス研究所 ラッシュ・ドーシ
5Gは将来的なハイテク分野における基幹インフラになると言われています。
そのような背景から5G技術を持つ国が、利益を得られ、良い技術者や科学者を集めることが可能になります。
これまでの4Gの世界では、GAFAを初めとする米国企業がリードしてきました。
現在は、覇権を握りたい中国とそれを手放したくないアメリカで国同士の争いが続いています。
米中のハイテク分野の争いは以下に示すように多岐にわたります。
2018年3月 米クアルコムの買収を大統領令で阻止
2018年4月 中ZTEと米国企業との取引を禁止(罰金の後解除)
2018年8月 米政府機関の中国通信機器の使用禁止
2018年12月 ファーウェイCFO孟晩舟がカナダで逮捕
2019年5月 米国キャリア等の企業が国家安全保障への脅威となる外国製品の使用を禁止
2019年11月 ファーウェイを米国通信事業者への補助金から排除
ここで示したのは、あくまで中国に対し直接的な表現のみですが、いかに米国がファーウェイ並びに中国を意識しているかがわかります。
また、世界の通信技術の標準化を目指す、「3GPP」でも中国の存在感は増しています。
3GPPでは、世界各国のキャリアや通信機器メーカーなどを代表するメンバーで構成されています。
その中には60以上の分科会がありますが、中国企業は2013年の8から、2017年の10に増加しています。
技術者の引き抜きも行われており、今後どのような変化があるか楽しみです。
Google VS アマゾン VS Microsoft
米国内では、5Gの上に成り立つビジネスを制する争いが始まっています。
1つはクラウドゲーミングサービス
2つめは、VRやARを始めとするXR端末です。
クラウドゲーミングサービス
クラウドゲーミングの分野では、GoogleはSTADIA、MicrosoftはXBoxシリーズ、アマゾンはまだ詳細は出ていませんが、参入を表明しています。
XBoxはSONYや任天堂のライバルというイメージが強いですが、マイクロソフト幹部はGoogleとアマゾンをライバルだと表明しています。
ゲーム業界ってそんなに重要?と思われるかも知れませんが、日本でもゲーム人口は4700万人以上存在すると言われています。
その市場規模も国内で1兆8000億円(総務省2015年)、世界で見ると15兆円規模なので、クラウドゲーミングにより更なる拡大を見込んでいます。

XR端末
XRとは、VR、ARに、MR(複合現実)を加えたものになります。
一消費者としてはARとMRの違いはさほど重要ではありませんので割愛しますが、いずれもユーザーのジェスチャーや視線の動き、音声によって操作されます。
この技術の活用先としては、ゲームというより、洋服の試着や化粧品の体験など小売店向けのサービスが盛り上がってくると考えられています。
他にも観光地の体験、スタジアムでのライブ観戦や試合観戦といった展開も期待されており、新しい娯楽の形がやってくるかもしれません。
利便性とセキュリティに揺れる5G
本書では、5Gが活用される社会の負の面にも言及されています。
自由に使えることで、利便性が高まりますが、私たちの生活(特にセキュリティ面)に悪影響がでる恐れもあります。
中国ではスマホ購入に顔認証が必要
中国では監視社会の動きが進んでいます。
特に、2019年12月から始まった、スマホ購入時の顔認証と個人データの登録は大きな一歩と言えます。
スマホの顔認証とはレベルが異なり、瞬きや顔の角度を変えたものを提出しなければなりません。
これにより、インターネット上の購買履歴や閲覧履歴などを監視することが可能になり、ますます監視社会が近づいているという懸念もあります。
AWSでは窃盗犯を逮捕
一方で、私たちの生活を助ける取り組みも進んでいます。
AWS(アマゾンウェブサービス)では、レコグニッションという画像認識機能を提供し始めました。
このシステムでは、APIを活用することで、企業や官公庁などAI技術を専門で扱っていなくても手軽に画像認識の技術を活用できます。
アマゾンはこの技術を、犯罪捜査に活用できることを売り込んだところ、アメリカの一部州で活用が始まりました。
結果は大成功で、小売店などの監視カメラと警察が持つ容疑者リストと照合し、逮捕につながりました。
まとめ
以上、簡単に本書についてまとめてみました。
5Gのことを知りたいけど、ぼんやりしてる…
といった人は、是非本書を手に取ってみてください。